今年はGeminiで通すつもりだった。 課金先はそちらに決めていたし、一年分の使い方も頭にあった。
そこにFable 5がすごいという話が流れてきた。 試してみたい。 理由はそれだけで、今月からClaude Proにも金を払った。
7月20日、Fable 5はClaude Proの定額の外に出た。 MaxとTeam Premiumでは週次利用上限の50%まで追加費用なしで使える標準機能になり、ProとTeam Standardは使った分だけ払う従量課金に切り替わった。 移行の見舞金として、Proユーザーには一度きりの100ドル分のクレジットが配られた。
もらった直後は太っ腹だと思った。 Fable 5を呼ぶたびに、その残高が減る。 数字が下がっていくのをしばらく眺めてから、これは砂時計だと気付いた。
残高がゼロになる日が、そのまま解約する日になるはずだった。 Fable 5を試すために入ったのだから、Fable 5が消えれば入っている理由も消える。 乗り換え先を探す話ですらない。 Geminiに戻るだけだった。
半額のOpus 5
7月24日、AnthropicがClaude Opus 5を出した。
Fable 5のフロンティア知能に迫る性能を、半分の価格で。 そしてOpus 5は、Claude Maxの新しいデフォルトであり、Claude Proで使える最強のモデルになった。
砂時計の隣に、別の水路ができた。 解約の予定日を、ひとまず消した。
廉価版だと思っていた
性能を落として値段を下げたものだと思っていた。 発表を読むと、そう単純な話ではなかった。
コーディングと知識労働の評価では、Opus 5がFable 5を上回っている。 Frontier-Benchでは前世代のOpus 4.8の倍以上のスコアを、より低いコストで出した。 CursorBenchでは、最大努力設定でFable 5のピークとの差が0.5%以内、コストは半分。 新奇な問題を解くARC-AGI 3では、2番手のモデルの3倍のスコアが出ている。
一方で、Anthropicは同じ発表の中で、Opus 5がサイバーセキュリティではMythos 5に及ばないと明記している。 脆弱性を見つける能力はMythos 5に近いところまで来たが、それを攻撃に変える段階のスコアは大きく離れている。 サイバー系のタスクは意図的に訓練から外してある、とも書いてある。
上下の関係ではなかった。 日々の仕事で使う知能はOpus 5のほうが高くて安く、危険度の高い二重用途の能力だけがMythos側に残っている。
自分の使い方に、後者を必要とする場面はない。 ブログの推敲、Power Automateのフローの相談、社内システムの検討。 どれもOpus 5の側にある能力だ。
何に安堵したのか
喜んだのは、賢いモデルが使えることだったのか。 それとも、残高が減らなくなったことだったのか。
たぶん後者の比重が大きい。 Fable 5に書かせた文章とOpus 4.8に書かせた文章の差を、自分は説明できない。 それでも、残高が減るのは怖かった。
この構図は、次も同じ形で来る。 最上位が出る、しばらく特別扱いされる、一段下が定額に降りてくる。 Fable 5がMaxの標準機能になり、Opus 5がProの最強モデルになった今回の動きは、そのサイクルの一周でしかない。
「話題のモデルを試したい」で入り、「そのモデルが消えた」で出る。 入口と出口をそこに置いていると、次の世代でも同じ往復をやることになる。 この一か月にClaudeへ投げた仕事のうち、料金分の時間が実際に浮いたものがどれだけあったか。 数えるべきはそちらだった。
ちなみに、Proの定額といっても週次の利用上限はある。 無制限になったわけではない。
同じ週に動いていた、別方向の話
Opus 5と同じ7月24日、NVIDIAやMicrosoft、Meta、IBM、Hugging Faceなど25の企業と団体が、「Open Weights and American AI Leadership」という共同書簡を公開した。
NVIDIAのJensen Huangは、これを人生初のX投稿として出している。
米国のAIの優位は単一のフロンティアモデルではなく、開いたエコシステムを作れるかで決まる、という主張だ。
背景には、7月16日にMoonshot AIが発表したKimi K3がある。
総パラメータ2.8兆、100万トークンのコンテキスト、画像の理解つき。
独立した評価でフロンティア級との差はわずかだと報じられ、指標によって3位とも4位ともされている。
ダウンロードできるモデルが、その位置に来た。
7月19日には、AlibabaのQwenチームが2.4兆パラメータのQwen3.8を予告した。 自ら「Fable 5に次ぐ」と位置づけている。
この流れは追いたい。 ただ、報道の熱量をそのまま受け取ると、二か所で足をすくわれる。
一つめ。 Kimi K3のウェイト公開は7月27日まで、Qwen3.8は「近日」の段階で、これを書いている時点ではどちらもまだ出ていない。 出ているスコアは、開発元の発表と先行提供されたAPIにもとづくものだ。 第三者が再現できるのは、重みが降りてきてからになる。
二つめ。 2.8兆パラメータのモデルは、自分のPCでは動かない。 MoEで実際に計算するのが一部の専門家ネットワークだけだとしても、重みは全部メモリに載せる必要がある。 オープンウェイトが意味するのは、自宅で動かせることではなく、開発元以外の誰かがそれを提供してもいい、ということだ。 増えるのはまず提供者の選択肢であって、個人の手元ではない。
Ollamaで遊べるのは、引き続きもっと小さいモデルのほうになる。
書簡に署名した25社は、全員オープンウェイトが広まると得をする立場にある。 GPUを売る会社、クラウドを貸す会社、モデルを配る場所を運営する会社。 署名していないのは、OpenAI、Anthropic、Googleだった。 どちらの言い分も、まずポジショントークとして読んでおく。
残高の代わりに数えるもの
砂時計を眺めていたころ、自分は残りの砂しか見ていなかった。 その砂で何をしたかは、数えていない。
来月も、Claudeの分は払うことにした。 最強のモデルが定額に入ったからではなく、この一か月で手元の作業がここに寄ったからだ。 Geminiは変わらず動いている。 寄らなくなったら、また向こうに戻せばいい。
Kimi K3の重みは、この記事の二日後に出る予定になっている。 そのころには、また何か変わっているだろう。