頭の中の渋滞を見下ろす

日常の気づきを、AIと共に

地球を全部メモリにすると何ギガバイトになるのか

ふと気になった。

地球上の材料を全部かき集めて記憶媒体を作ったら、いったい何ギガバイト保存できるのだろう。 そして、AIが賢くなり続けたとして、その容量で足りるのだろうか。

容量のほうの答えは、途方もない数字になる。 なるのだが、「足りるか」の答えは、思っていたのと違う場所から出てきた。

SDカードで地球を作る

まず素朴に計算してみる。

1TBのmicroSDカードは、だいたい0.5グラムしかない。 1グラムあたり2TBという計算になる。

地球の質量はおよそ60垓トンだ。 垓というのは兆の1億倍で、6のあとにゼロが21個並ぶ。 これを全部microSDにしたとすると、こうなる。

10の31乗GB。 1のあとにゼロが31個。

比較対象がないとピンとこないので、今この瞬間に世界中に存在するデータの総量を持ってくる。 そちらは10の14乗GBくらいである。

つまり地球一個ぶんのメモリは、人類の全データの10の17乗倍。 1京のさらに10億倍だ。 書いていて自分でも量の見当がつかない。

1ビットあたり原子10億個

しかも、10の31乗はまだ本気を出していない数字だった。

今のフラッシュメモリは、0か1かの1ビットを記録するのに原子を10億個ほど使っている。 1ビットのために10億個である。 ずいぶん贅沢な使い方をしている。

原子1個に1ビット書ければいいのに、と思うところだが、これは既に実現している。 2017年、IBMがホルミウムという元素の原子1個に1ビットを記録し、読み出すことに成功した。

これを地球全部でやると、さらに10億倍で10の40乗GBになる。

その先は物理の話になる。 情報を詰め込める密度には上限があり、それは体積ではなく表面積で決まる(ベケンシュタイン限界という)。 物質を情報でぎちぎちに詰めていくと、最後は自分の重さで潰れてブラックホールになってしまうからだ。

地球を全部潰してブラックホールにすると、直径1.8センチになる。 ビー玉くらいのものだ。 そこに10の56乗GB入る。

最高性能の記憶装置はブラックホールである、というのが物理学の出した答えだった。

「1京の10億倍」が消えるまでの時間

ここまでの数字を見て、当然こう思った。 足りないわけがない、と。

ところが、倍々ゲームの話がここで出てくる。

世界のデータ量は、だいたい3年で2倍のペースで増え続けている。 紙を42回折ると月に届く、というあの話と同じで、倍々というのは直感を軽く裏切る速さで進む。

今の量から地球いっぱいまでは17桁ある。 17桁は約56回の倍増だ。 3年で1回倍増するなら、170年ほどで使い切る

そこから原子1個メモリの限界まで行っても、さらに90年しか稼げない。

1京の10億倍の余裕が、260年で溶ける。 指数関数というのは、そういう相手だった。

この試算の穴

とはいえ、この計算にはいくつも穴がある。

一つめ。 AI本体は、意外と小さい。 巨大な言語モデルでも、中身のデータは数十TB程度でしかない。 容量を食い潰しているのは動画と監視カメラのほうであって、AIではなかった。

二つめ。 AIはむしろ圧縮する側の技術である。 学習というのは、大量のデータを読んでエッセンスだけ抜き出す作業だ。 教科書を全部暗記する代わりに、要点ノートを作っているようなものだと思えばいい。 だとすると、AIが賢くなるほど「元データを捨ててモデルだけ残す」ことができるようになり、必要な容量はむしろ減る可能性がある。

三つめが本命だった。 材料が尽きるより先に、電気が尽きる。 1ビット消すのに最低限これだけのエネルギーが要る、という下限が物理法則で決まっている(ランダウアーの原理)。 この理論上の最低ラインで計算しても、地球いっぱいのメモリに一度書き込むだけで、人類が1年で使うエネルギーに匹敵する量を持っていかれる。 しかも現実の機械は、この下限より1000倍から100万倍も効率が悪い。

これは未来の話でもない。 今のデータセンターも、土地や半導体ではなく電力が足りなくて建てられない、という状況になっている。

半導体以外の記憶媒体

ところで、半導体以外の材料で記憶媒体は作れるのか、というのも気になっていた。

ここは前提から訂正が要る。 半導体の材料であるケイ素は、地殻で酸素に次いで2番目に多い元素だ。 要するに砂である。 枯渇の心配はない。

だから半導体以外が研究されている理由は、材料不足ではなかった。 もっと小さくしたい、もっと長持ちさせたい、もっと電気を食わないようにしたい、の3つである。

実物があるものを並べてみる。

  • DNA:生き物の遺伝子と同じ仕組みでデータを書く。密度は今の1億倍。ただし読み書きが絶望的に遅い
  • 石英ガラス:ガラスにレーザーで書き込む。寿命は数十億年クラスで、Microsoftが実用化を進めている
  • 単原子磁性体:さきほど出てきた原子1個の記録。まだ極低温が要る

飛躍側の話も一つ。 量子コンピュータなら容量が無限になる、という言い方をたまに見かけるが、これは誤解だ。 量子メモリの中にどれだけ情報を詰め込んでも、外に取り出せる古典情報の量は普通のメモリと変わらない、という法則がある(ホレヴォー限界)。 中は広いが、出口の幅が同じなのである。

結局、何が足りないのか

問いは「地球の材料で足りるか」だった。 答えは、足りる。 それも桁違いに足りる。

ただし、この答えにはあまり意味がない。 地球を丸ごと溶かして加工できる文明を想定した数字だからだ。 現実に人類が使える物質は、地球質量の100万分の1にも届かない。

面白かったのは、制約が場所を変えていたことだった。 記憶媒体の話をしていたはずが、最後に出てきたのは発電所と冷却の話だった。 容量は余っている。 足りないのは電気だ。

もっとも、二つめの穴が正しければ、そもそも保存すべきデータ量が増え続けるとは限らない。 人類は今でも、生まれたデータの大半を見ずに捨てている。 AIが要点ノートを作れるようになったとき、元の教科書をどれだけ残すのか。 そこはまだ、わからない。